その2:真夏の約束

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真夏の約束
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採用後、しかも出勤初日の朝、彼女の腕を見て、私は驚きと躊躇でいっぱいの気持ちになりました。聞けば彼女は産まれながらに片腕だそうです。彼女を少し待たせ、まずは他のスタッフ達を現場に送り出した後、「このお仕事は体力いるんだが…どうだい?」と尋ねると、彼女は明るく「私は体力に自信あります!!」と答えてくれました。

それなら…と、「説明会でもお話したが、チラシはキレイに折ってからポストに入れるんだが…出来るかい?」と尋ねてみたのですが…彼女は置いてあったチラシを手に取り、見事な手さばきで、片手でキレイに折り、さも「どう?出来るでしょ?」と言わんばかりに見せてくれました。これには私も閉口です。

「解りました。では、決して無理せず現場で何かあったらすぐに連絡するんだよ?」と、彼女を現場に送り出しました。というか…送り出すしかありませんでした。

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最近は酷暑なんて云われますが、昔だって夏は大変暑く。(笑) 真夏にポスティングされた経験のある方はご存じだと思いますが、夏の太陽は尋常じゃないほど肌を照りつけ、体力を奪うものです。水分補給する側から汗として流れ、木立で一休みしようものなら、腰を上げるのがツラいのです。日焼けの上に日焼けを重ねるので、服装に気をつけないと露出している部分は痛々しくなることも。

特に夏は「サンダルはダメって言ったでしょっ(汗)(*`ロ´*ノ)」(理由:階段等で転びやすいから)「パンプスじゃ仕事出来ないからっ!(滝汗)( ゚∀゚;)」(履きなれたスニーカー系で…って言ってるのに履いてくるんです。苦笑)というアルバイトちゃん達も多い中、そして『真夏』という過酷な環境下で脱落していく子たちも多いんです。

当時は説明会後、自分の意志で『出来ます!』『やります!』と言ってくれた方たちは全員採用しておりました。そして採用者には白紙のカレンダーを渡し、「自分が出勤できる日に丸印をつけてね」と、出勤日についても自由に選べるようしていましたし、連日で出勤希望する子達には「最初のうちは体が慣れるまで、途中に休日を入れた方が良いよ?」とアドバイスも。

だからこそ…ですが、「その丸印は、こちらが出なさいと言ったのではなく自分で出勤しますと言った丸印です。大人(20歳以上しか雇用してませんでした)として責任を持つんだよ」と確認をとり、面接を受けた子たちもまた「解りました!」と元気に答えてくれたものでした。(出勤日の事前変更はOKでした)

しかし…季節は真夏、太陽の光と暑さが誤算を招く季節です。どんどん脱落者が出るんです。時にこちらの想定外ほど、辞めていく子たちも居るんです。そんな中、当初の心配はどこへやら、件の彼女はしっかりきっちり自分がつけた丸印に責任を持ち、脱落していく同年代の子たちをよそに逞しく成長していってくれました。

当時、管理する側としてはキレイにポスティングされているか?などを確認するためのチェックもしていたのですが、自慢げに折ってみせてくれただけあって彼女の担当地域はどこも満点合格!!どのポストにも配り漏れも無く、キレイに折ったチラシが入っておりました。

ポスティングのお仕事は肩に食い込むチラシの重さや、筋肉痛、足裏のマメなども特に初めて1週間~10日は辛いモノ。朝はそういった愚痴が出たり、場合によっては親が電話してきて「ウチの子は足が痛いので休みます!」なんて事も日常茶飯事でして。(^_^;)こんな状況下、一見屈強に見える体育会系の男の子さえ脱落していく中で約1か月半、彼女は遂に約束した日まで文句ひとつ言わずお仕事してくれたのでした。いつも明るく、キレイで丁寧に。をモットーに、自分がつけた丸印に責任を持ってくれたのです。

その3に続く

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